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東京地方裁判所 平成元年(ワ)6185号 判決

主文

一  原告の、第二事件の主位的請求のうち別紙本件決議(二)1及び2記載の各決議の不存在確認の訴え、第二事件の予備的請求のうち別紙本件決議(二)1及び2記載の各決議の無効確認の訴え及び第三事件の別紙本件決議(三)の決議の無効確認の訴えをいずれも却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告の負担とする。

理由

第一  請求の趣旨

(第一事件)

平成元年二月一九日開催の被告の定期総会における別紙本件決議(一)記載の各決議は無効であることを確認する。

(第二事件)

一  主位的請求

平成二年三月四日開催の被告の定期総会における別紙本件決議(二)記載の各決議は存在しないことを確認する。

二  予備的請求

平成二年三月四日開催の被告の定期総会における別紙本件決議(二)記載の各決議は無効であることを確認する。

(第三事件)

一  原告が被告の理事長であることを確認する。

二  昭和六三年七月三日開催の被告の臨時総会における別紙本件決議(三)記載の決議は無効であることを確認する。

第二  事案の概要

一  前提となる事実(争いがないか掲記の証拠により認められる)

(第一事件)

1 原告は、朝日九段マンションの区分所有者である。

被告は、平成元年二月一九日に解散した千代田区九段北所在の朝日九段マンションの管理組合法人である。

2 被告の平成元年二月一九日の総会(本件総会(一))において、別紙本件決議(一)記載の各決議(本件決議(一))が、議決権数(六五七票)の各四分の三(四九三票)を超える五〇四票の賛成が得られたとして、可決された。

3 本件決議(一)に対して代理人により投じられた賛成票のうち、その有効性が争われている分の委任者の名義、議決権数及び受任者は、次のとおりである。

(区分所有者)  (委任者の名義)

(議決権数)  (受任者)

横山勝男       同

二 川村善次理事長

杉本建設株式会社   同

五八 右同

株式会社日刊工業新聞 同

二四 右同

畑秀雄        同

四 山口勉(非居住者)

飯野南海子      同

二 中谷茂(非居住者)

原寛         同

二 村木茂(非居住者)

岡田正子、岡田重信  岡田正敏

三 川村善次理事長(甲一五)

有限会社弘陽地所   渡辺弘

二 白紙(甲一七)

山本弘美、山本キヨ  山本比佐志

二 川村善次理事長(甲一九)

(第二事件)

1 被告の平成二年三月四日の総会(本件総会(二))において、別紙本件決議(二)記載の各決議(本件決議(二))がなされた。

2 本件決議(二)に対して、代理人により投じられた賛成票のうち、その有効性が争われている分の委任者、議決権数及び受任者は、次のとおりである。

(区分所有者)  (委任者の名義)

(議決権数)  (受任者)

山田キミ      同

三    井堀周作(非居住者)

沢田隆       同

三    小澤治夫 右同

柏直子       同

二    村木茂 右同

柏正美       同

五    井上登 右同

吉田礼子      吉田良之助

二    川村善次理事長

(第三事件)

1 原告は、被告の組合員であり、昭和六二年二月二二日開催の被告の定期総会において理事に、同日開催された理事会において理事長にそれぞれ選任された。

2 原告を含む理事(当時)全員は、昭和六三年七月三日の被告の臨時総会(本件総会(三))において、理事長である原告に対する不信任決議が可決されたため、理事を辞任した。原告は、理事の辞任にともない、理事長の地位を喪失した。

3 右総会において、理事全員の辞任を受けて、川村善次外一二名の理事を選任した(本件選任決議(三))。

二 争点

(第一事件)

被告は、1のとおり原告の訴えの却下を求め、原告は、2のとおり本件総会(一)の招集手続に瑕疵があるほか、3ないし6の理由による無効投票を含んでいるため特別決議の可決要件を満たしておらず、本件決議(一)は無効である旨主張している。

1 本案前の主張

〔被告〕

本件決議(一)2について、原告が特に問題としている議決権条項については、被告と実質的同一性を有する朝日九段マンション管理組合(管理組合)において、平成二年三月四日の定時総会において「所有専有部分の床面積の割合で計算した議決権を有する」と改め、本件決議(一)2以前の議決権割合と同一に復帰しているから、本件決議(一)2の無効を確認する利益はない。

2 招集手続の瑕疵

〔原告〕

建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)三五条五項により、規約を改正する場合は、集会の招集通知に、議案の要領を記載することを要するところ、本件総会(一)の招集通知には、第五号議案として「規約・規則の改正の件(保険条項、近隣関連事項、総会条項、議決権条項、理事会条項)」との、組合員に議案の内容が判らない極めて抽象的な記載があるのみで、議案の要領の記載があるとは認められないから、通知として不適法である。

〔被告〕

本件総会(一)の招集通知書の「規約・規則の改正の件(保険条項、近隣関連事項、総会条項、議決権条項、理事会条項)」との記載は、簡単ではあるが、組合員が賛否の意思決定の参考とすることが可能なものであるから、議案の要領を欠くとはいえない。議場においては、右議案の説明が十分なされた上で決議され、さらに、平成二年三月四日の管理組合の定時総会において再決議されている。本件総会(一)の招集手続に瑕疵があったとしても軽微であるから、その瑕疵が治癒されたと解すべきである。

本件総会(一)の招集通知書の体裁は原告が被告の理事長であった時代に行われていた通知の形式を踏襲したものである。しかも、原告が理事時代に区分所有法三条の団体であった被告を法人化する決議を行った際は、総会の招集通知には、被告を法人化する旨の記載を一切していない。このような原告が招集通知の記載の瑕疵を主張すること自体失当である。

また、原告が特に問題としている議決権条項については、管理組合においては、平成二年三月四日の定時総会において「所有専有部分の床面積の割合で計算した議決権を有する」と改め、本件決議(一)2以前の議決権割合と同一に復帰している上、本件総会(一)の各決議について原告のほかに異議を述べる組合員が存在せず、安定的に管理組合の運営がなされている。このような状況の下では、本件総会(一)の各決議を無効とすることは法的安定性を著しく害するから、無効とすべきではない。

3 委任状作成者の無権限

〔原告〕

(一) 杉本建設株式会社(杉本建設)の委任状は、委任権限のない女性事務員である三条弥栄子が作成したもので、無効である。

(二) 株式会社日刊工業新聞(日刊工業)の委任状は、委任権限のない総務部の窓口担当者であった松尾洋三が作成したもので、無効である。

〔被告〕

杉本建設、日刊工業の委任状は有効なものであって、両社の従業員が偽造したものではない。

4 委任契約の詐欺による取消し

〔原告〕

横山勝男、杉本建設、日刊工業は、いずれも、被告の理事奥村、鮎沢享弐またはマンション管理人である南川から、本件総会(一)における議案は被告管理法人の解散、規約・規則の改正を含む重大なものであったにもかかわらず、これを秘して「大した議案はないから委任状を提出して欲しい」旨虚偽の事実を告げられたため、大した議案はないものと誤信し、川村理事長に対する議決権行使の委任状を作成して、鮎沢又は南川に交付したものである。また、招集通知に記載した議案の順序が実際の議決の順序と異なるのも、故意に議案の重大性を隠そうとしたもので、右の事実とあいまって欺罔行為を構成する。したがって、右委任は、詐欺を理由に取り消し得る。

原告は、横山、杉本建設、日刊工業から委任を受け、同人らの代理人として、平成元年四月上旬ころ、川村に対し、右議決権行使の委任を取り消す意思表示をした。

さらに、横山は、同年五月一〇日ころ、川村に対し、右議決権行使の委任契約を取り消す意思表示をした。

また、原告は、同年五月一五日本件訴訟を通じ(横山については、さらに平成二年一二月二〇日の準備手続期日において)、横山、杉本建設、日刊工業の依頼に基づいて、右議決権行使の委任を取り消す意思表示をした。

〔被告〕

被告の理事及びマンション管理人は、横山、杉本建設及び日刊工業に対し、何ら欺罔行為を行っていない。横山に対しては、本件総会(一)の議案を記載した案内状に委任状の用紙を同封して郵便受に投函し、同人が委任状を管理人に持参したものであり、杉本建設に対しても、同様の書類を郵送し、委任状の返送を受けただけで、いずれについても原告主張のような勧誘文言を述べる機会はなかった。日刊工業については、鮎沢理事が、本件総会(一)の開催の案内状を交付後、同社の総務部松尾洋三次長に対して総会出席を依頼し、出席できない場合は委任状を提出してくれるように勧誘をしたことはあるが、大した議案はない等と言ったことはない。

また、川村理事長が、詐欺による取消しの意思表示を受けたことはない。

なお、招集通知に記載した議案の順序が実際の議決の順序と異なるのは、議決事項の内容が被告解散後の管理組合のための決議事項であったから、理論的に解散決議を先行させたものに過ぎず、決議の重大性を隠そうという意図はなかった。

5 代理人資格の欠缺

〔原告〕

被告の居住・利用に関する規則(規則)五四条一項によれば、総会における議決権行使の委任について、受任者は居住者または管理組合理事会に限り認められており、その他の第三者に対する委任は認められていない。畑秀雄、飯野南海子及び原寛は、代理人資格のない山口勉らに議決権の行使を委任しており、委任契約は無効である。

〔被告〕

(一) 規則五四条一項は、「委任者は、本マンションに居住している者、又は本マンション組合理事会の限り認められその他の第三者には認められません。」と定め、委任者を制限した規定である。委任者を制限する趣旨が不明とすれば、この規定の効力を否定すべきであって、原告のように「委任者」を「受任者」の誤植であると解することは困難である。

仮に「委任者」が「受任者」の誤植であるとしても、受任者を限定すること、受任者を自然人以外の管理組合理事会とすることは、その合理性に疑いがあり、また、受任者を限定することは組合員の権利に関する重要な制約となるものであるから、規約五五条によって規則に授権された範囲を超え、無効である。

(二) 規則五四条一項追加前の被告の規約四条三項は、「組合員の有する議決権は、書面により代理委任状を示すことにより、代理人により行使することができる」と規定し、代理人資格についての制限はなかった。規則五四条一項が原告主張のように代理人資格を制限するものであるとすれば、規約の変更に当たるから、区分所有法三一条一項所定の特別決議(区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議)を経て変更する必要があるところ、右特別決議を経ていないから、規約の変更とは認められず、無効である。

6 委任者資格の欠缺

〔原告〕

被告の組合員は、朝日九段マンションの区分所有者に限定される。岡田正敏、渡辺弘及び山本比佐志は朝日九段マンションの区分所有者ではないから、議決権を有していない。したがって、岡田らが議決権の行使を委任しても、法的には、この委任契約はいずれも存在しない。

〔被告〕

岡田正敏は区分所有者岡田正子・同岡田重信の子、渡辺弘は区分所有者有限会社弘陽地所の監査役かつ同社代表者渡辺正子の夫、山本比佐志は区分所有者山本弘美の夫かつ同山本キヨの子であり、委任状はいずれも区分所有者の家族又は役員の氏名を記載して提出されたに過ぎず、区分所有者の意思に基づく有効なものである。

(第二事件)

1 本案前の主張

〔被告〕

別紙本件決議(二)1及び2記載の決議は、有効に成立した別紙本件決議(一)1記載の決議を確認しただけである。また、別紙本件決議(二)3記載の決議については、被告解散時における被告の財産一切が管理組合に移転することを前提として、本件総会(一)において予算案が可決されており、本件総会(一)で承認されていた事項を、本件総会(二)において確認しただけである。

したがって、原告の主位的請求のうち、本件決議(二)1ないし3の不存在確認の訴え、予備的請求のうち、本件決議(二)1ないし3の無効確認の訴えは、いずれも、確認の利益がない。

〔原告〕

本件決議(一)は無効である。

本件総会(一)における予算案の可決は、被告の財産を管理組合に移転することを承認する趣旨まで含むものとは解し得ない。

(主位的請求)

2 招集者の資格欠缺による決議不存在

〔原告〕

清算人の職務は、法律上、現務の結了、債権の取立て及び債務の弁済、並びに残余財産の引渡に限定されており、総会を招集する権限はない。本件総会(二)は、権限のない清算人が招集したものとして不存在であるから、本件決議(二)も不存在である。

〔被告〕

(一) 原告は本件決議(一)が無効であると主張するが、無効であれば、川村は清算人ではないから、本件総会(二)の招集に原告主張のような瑕疵はない。原告は本件決議(一)が無効であると主張しながら、本件総会(二)が清算人の招集であると主張することは禁反言の法理に反し許されない。

(二) 清算人の権限は清算事務全般に及ぶのであり、区分所有法五五条三項が準用する民法七八条一項各号の事項は、主な清算事務の内容を例示したものに過ぎず、これに限定されるものではない。清算人の事務を行う上で総会の議決が必要であれば、総会を招集することは当然に清算人の権限内の行為である。本件総会(二)当時、被告と原告との間に、被告の解散、清算人の選任、残余財産の管理組合への引渡し、監事の選任を巡る紛争があった。右紛争の解決を図ることは現務の結了に該当する事項であり、また、原告と被告との紛争から生じた弁護士費用その他の損害金の請求訴訟を提起すること及びその訴訟に必要な費用を支出することも、現務の結了に該当する。本件総会(二)は、清算人の職務の範囲内の行為を総会に諮ったものに過ぎず、清算人は当然に招集権限を有する。

(予備的請求)

3 投票数の確認の不備

〔原告〕

本件決議(二)は、次の理由により無効である。

(一) 本件決議(二)の議決に当たっては、反対者を確認したに過ぎず、賛成者数と棄権者数を確認していない。

(二) 被告の規約四四条によれば、議決権は、最小区分所有単位を一票として、その所有する専有部分の床面積の割合で計算することとされているにもかかわらず、本件総会(二)において、右規約による議決権数に基づいた定足数の確認及び賛成者数の確認をしていない瑕疵がある。

〔被告〕

(一) 本件総会(一)において、規約四四条の議決権規定は、面積比から、「所有個数及び専有面積にかかわらず、組合員は一票の議決権を有する」と改訂されており、本件総会(二)における議決権は組合員一人一票である。

(二) 本件総会(二)における組合員数及び面積比による議決権数は、次のとおりであり、本件議決(二)1は原告を含めて三名、同(二)2ないし4は原告を含めて二名、同(二)5は原告のみがそれぞれ反対したが、反対者を除く組合員は、原告の異常とも言える訴訟提起に憤りを感じている者ばかりで、棄権する組合員は誰もいなかった(棄権者がいたなら、その場でその旨を述べていた筈である)。したがって、反対者以外は全て賛成している。仮に棄権者がいたとしても、圧倒的多数の賛成を得ており、その決議結果に影響はない。なお、反対者の議決権数は、原告が九票であるほか、不明である。

組合員総数  一六七名

議決権総数  六五七

出席組合員数  三七名

議決権数   一八六

委任状数    九九名

議決権数   三二一

4 無効票の存在

〔原告〕

本件議決(二)の投票総数は議事録上五〇七とされているが、この中には、次のような無効票があり、この他に少なくとも一七の反対票があったから、賛成票は四七五にとどまり、解散の再決議については特別決議の可決要件を満たしていない。また、このような無資格者が参加したこと自体が決議の瑕疵というべきである。

(一) 代理人資格の欠缺

規則五四条一項によれば、総会における議決権の行使を委任する場合、受任者は居住者または管理組合理事会に限り認められており、その他の第三者に対する委任は認められていない。山田キミ、沢田隆、柏直子及び柏正美は、代理人資格のない井堀周作らに議決権の行使を依頼しており、右委任は無効である。

(二) 委任者資格の欠缺

吉田良之助は区分所有者でないから、議決権の行使を委任する資格に欠ける。

〔被告〕

仮に無資格者が決議に参加したとしても、わずかな票数であるから、決議の無効原因とはならない。

(一) 第一事件5〔被告〕(一)及び(二)のとおり

(二) 吉田良之助は、区分所有者である吉田礼子の夫であって、同女の意思に基づく有効な委任である。

5 本件決議(二)3(管理法人から管理組合への財産の移転)の無効

〔原告〕

(一) 区分所有法五六条によれば、解散した管理組合法人の財産は、規約に別段の定めがある場合を除いて、同法一四条に定める割合と同一の割合で各区分所有者に帰属し、同法五五条により清算手続が行われるべきこととされている。被告の規約には、解散した場合の財産の帰属について、別段の定めはないから、区分所有者全員の同意によらず、本件決議(二)3により残余財産の処分をすることは、区分所有法に違反し無効である。

(二) 管理組合法人が解散した場合には、清算手続中の管理組合法人と、区分所有法三条により当然に存在する自治団体とが併存することとになり、いわゆる管理組合(規約を有し、管理者がいて、現実に集会を持つ等して活動している団体)が当然に存在することにはならない。朝日九段マンション管理組合という名称の管理組合が集会決議により成立したことはなく、その規約が成立したこともなく、管理者が選任されたこともない。したがって、本件決議(二)3は、適法に存在しない団体に対して財産を譲渡しようとするものであり、その内容において無効である。

〔被告〕

(一) 被告の解散は、集会の決議による解散(区分所有法五五条一項三号)であるから、建物の滅失(同項一号)や専有部分の消滅(同項二号)による解散のように法人存立の基礎である区分所有権者の団体が存在しなくなる場合と異なり、被告解散後も団体の実体がなお存続する。総会決議による解散の場合は、法人格の喪失を意味するだけで、実質的には被告と管理組合とは、同一性があるというべきである。このような場合、規約に特段の定めがない限り、被告の残余財産は、区分所有者に現実に払い戻されることなく、区分所有者全員に合有的ないし総有的に帰属する。すなわち、管理組合法人が解散しても、区分所有法三条の団体はなお存続し、解散時における被告の財産一切は、清算手続を要することなく、右存続する団体に移転する。

6 本件決議(二)4(監事選任)の無効

〔原告〕

平成元年一一月一二日開催の臨時総会は、管理組合の臨時総会として招集されており、法人である被告の臨時総会ではないから、同総会において監事が選任されたことを前提として、選任の確認をすることは許されない。

〔被告〕

平成元年一一月一二日の臨時総会における監事の選任決議は、被告及び管理組合の総会決議としてなされた。

仮に右臨時総会が被告の臨時総会ではなかったとしても、本件総会(二)において、その瑕疵を治癒させるため監事選任の確認の決議をすること、また、監事選任の再決議をすることに何ら制限はない。

(第三事件)

1 本案前の主張

〔被告〕

(一) 被告の規約三四条によれば、役員の任期は次回の定期総会終了時までと定められている。原告の任期はすでに満了しており、原告が被告の理事長の地位にあったという過去の事実を確認しても、被告と原告との紛争を抜本的に解決することにはならないから、確認の利益がない。

(二) 同様に、本件決議により選任された理事らの任期も満了しており、すでにその地位にないから、本件決議の無効を確認する利益がない。

〔原告〕

原告の辞任の意思表示は無効であるから、原告は理事の地位に留まっており、その後任を選出した本件選任決議は、当然無効である。さらに、その理事から互選された理事長の行為も無効であるから、結局、右の理事長が招集した総会の決議も不存在となる。原告は被告を相手に原告辞任後の総会決議の無効確認等の訴えを提起しており、これらの紛争を根本的に解決するためには、原告が理事長であることを確認する必要がある。

2 不信任決議の無効―理事長の地位の喪失

〔原告〕

(一) 本件総会において、不信任案決議が可決されたのは、「マンションを守る会」と称する一部の組合員が虚偽の事実を喧伝して、虚偽の事実を信じた組合員が原告に対する不信任案決議に賛成票を投じたからであり、虚偽の事実を信用した組合員には錯誤がある。組合員の中には錯誤があったことを認めている者もおり、原告は組合員が錯誤を主張することに密接な利害関係を有するから、組合員に代わって錯誤の主張ができる。したがって、この不信任の議決権行使は無効であり、不信任決議も無効である。原告が辞任したのは、不信任決議が有効であると信じたためであり、この不信任決議は無効である以上、原告の辞任の意思表示も錯誤により無効である。原告が理事長の地位を喪失したのは、理事を辞任したことに伴うものであり、理事が辞任していない以上、原告は現在も被告の理事長である。

(二) 被告は委任状出席者を除外して出席組合員だけで決議が行われた旨主張するが、そもそも本件総会(三)における委任状出席者も含む総出席者の議決権総数が四一五票、その過半数が二〇八票であるとする根拠がない上、出席組合員の不信任票で有効と解される者は一九〇票を超えない。すなわち、

一一〇三号室 吉田良之助

(議決権数二票)

三一四号室 小槫克郎

(右同 二票)

一一一二号室 柏正美

(右同 二票)

六〇一号室 高濱宏次

(右同 五票)

四一二号室 高濱宏次

(右同 二票)

は、非組合員が投票したもので無効であり、

六〇八号室 大野安夫

(議決権数三票)

は、白票の出席票と不信任の出席票を重複して提出しており、その意思が確認できない以上、白票に加えるべきであり、

九〇六号室 矢野

(議決権数三票)

七一一号室 山野辺

(右同 七票)

七〇一号室 高橋(右同 五票)

は、出席票に姓名の記載しかなく、組合員が出席したか否か不明であり、有効票とすることはできない(なお、七一一号室の山野辺の議決権数は正しくは七票ではなく、五票である。)。規約末尾に添付されている各専有部分の票数表から計算すれば、不信任票は二一八票となるから、これから右無効票等を控除すれば、不信任票が被告主張の議決権数の過半数二〇八票を超えないことは明らかである。

〔被告〕

(一) 原告の理事の任期はすでに満了しており、原告が現在も被告の理事の地位にあるというためには、任期満了後も理事及び理事長に選任され続けることが必要であるが、原告は、任期満了後に理事及び理事長には選任されていない。

(二) 原告が理事長の地位を喪失したのは、理事を辞任したからではない。被告の規則は、理事会は、理事の一人から理事長不信案が出された場合、直ちに議事を中止し、理事長の再選をしなければならず、理事長の再選が出席理事の四分の三以上から支持されない場合は、臨時総会を開催し、全組合員によって理事長を選任する旨規定している(七五条一二項、一三項)。昭和六三年六月一四日の理事会において、鮎沢享弐理事(当時)から理事長である原告の不信任決議案が提出され、原告の再選は支持されなかったから、当然に理事長の地位を喪失した。

仮に、再選されなかったことにより当然に理事長の地位を喪失しないとしても、不信任決議は原告を理事長から解任する決議と同一の効力を有するものであり、不信任決議により理事長の地位を喪失した。

(三) 不信決議に瑕疵はない。流布された虚偽の事実を信じて不信任票を投じたと主張する組合員はいない。投票した組合員が錯誤を主張しない以上、原告が錯誤を主張することはできない。

仮に委任状の提出に瑕疵があったとしても、本件総会における原告の不信任決議は出席組合員のみにより決議されたものであり、委任状の提出に関する瑕疵は影響がない。すなわち、本件総会(三)の出席者は、出席組合員七五名(面積比による議決権数 二三七票)、委任状による出席者六七名(右同一七八票)であったが、委任状による出席者を除外し、出席組合員だけで原告の不信任決議の投票を行ったところ、不信票を投じた者六一名(議決権数二二六名)、信任票を投じた者三名(議決権数一七票)、白票を投じた者六名(議決権数一八票)であったため、総会に出席した総議決権数の過半数二〇八票を超える二二六票の賛成により決議されたものであるから、委任状による議決権数を含めるまでもなく決議は有効である。

原告が無効票であると主張する不信任票の投票者と区分所有者の関係は次のとおりである。

一一〇三号室 吉田良之助

区分所有者吉田礼子の配偶者

三一四号室 小槫克郎

区分所有者小槫美津子の配偶者

一一一二号室 柏正美

区分所有者柏直子の配偶者

六〇一号室 高濱宏次

区分所有者である株式会社の代表者

四一二号室 右同 右同

これらの投票は、家族または代表者の氏名を記載して提出されたものか、家族が区分所有者の代わりに出席していたものであるに過ぎないから、有効である。六〇八号室の大野安夫が重複して提出した出席票のうち、白票のものは無効であり、不信任の記載があるものが有効と考えるのが当然である。九〇六号室の矢野、七一一号室の山野辺及び七〇一号室の高橋の投票は有効であることは論を待たない。なお、山野辺の議決権は七一一号の五票に加え、同人が所有する他の部屋の二票を加え合計して七票である。

3 本件決議(三)の無効

〔原告〕

本件総会において、原告を含む理事(当時)全員が辞任の意思表示を行ったのは、不信任決議が可決されたからである。しかし、不信任決議は無効であり、原告の理事の辞任の意思表示も無効であるから、後任の理事を選任することはできなかった。したがって、本件決議(三)は無効である。

〔被告〕

仮に原告の理事辞任の意思表示に動機の錯誤があったとしても、他の理事の辞任の意思表示は有効になされているから、後任理事を選任することに何ら問題はない。

第二  当裁判所の判断

(第一事件)

一  本案前の主張について

被告は、本件決議(一)2について、原告が特に問題としているのは議決権の算定方法を変更したことであるところ、管理組合の定時総会において、本件決議(一)2以前と同一の議決権の算定方法に再変更しているから、現在においては、本件決議(一)2の無効を確認する利益がないと主張する。確かに、管理組合においては、組合員一人一票とする議決権の算定方法を所有専有部分の床面積の割合で計算する従来の方法に変更している(乙五)。しかし、これは管理組合の総会における議決権の算定方法の変更であり、同日行われた被告の本件総会(二)においては、議決権の算定方法の変更は行われず、組合員一人一票とする議決権の算定方法に則って決議が行われている(乙三)。被告と管理組合が実質的な同一性を有するといっても、解散時点において、被告から管理組合にその実質が引き継がれたというにとどまり、解散後の両者は法的には別個の存在であり、管理組合の総会において、議決権の算定方法の変更があったからといって、その変更の効果が被告に及ぶものとは解されない。組合員一人一票の議決権の算定方法は被告においては変更されていないとみるべきであり、その無効を確認する利益は失われていない。のみならず、本件決議(一)2は、議決権条項のほかにも実質的な決議事項を含んでいるから、その点からも、無効を確認する利益はある。したがって、被告の主張は失当である。

二  招集手続の瑕疵について

区分所有法三五条五項によれば、規約の改正等を目的とする総会(集会)を招集する場合には、議案の要領をも通知しなければならない。こうした規定を設けた趣旨は、区分所有者の権利義務に重大な影響のある特に重要な事項については、会議の目的たる事項の通知(同条一項)だけでなく、議案の具体的な内容も通知させることとして、議決権者らに予め議案の内容を検討できるようにして議事を充実させるとともに、集会に出席しない区分所有者も書面によって議決権を行使することができるようにする点にあると解される。したがって、少なくとも賛否の検討が可能な程度には議案の具体的内容が記載されていなければ、議案の要領の通知があったものとはいえない。本件総会(一)の招集通知書には、第五号議案として、「規約・規則の改正の件(保険条項、近隣関連事項、総会条項、議決権条項、理事会条項)」と記載されていただけで(争いがない)、議案の具体的内容が記載されているとはとてもいえないから、右記載をもって議案の要領の記載があるとは認められない。したがって、本件決議(一)2は、議案の要領の通知のない議案についての決議というべきである。

ところで、議案の要領の通知がない場合の決議の効力については規定がないが、前述のように右通知の趣旨が議事の充実と書面投票をする組合員の便宜を図る点にあり、議決権行使の保障という観点からみて不可欠なものではないことからすれば、右通知の欠缺は、基本的には軽微な瑕疵と考えるべきであり、法的安定性を犠牲にしてまで常に決議の無効事由になると解するのは相当ではなく、決議に重大な影響を及ぼすべき特段の事情が認められる場合を除いては、無効事由とならないものと解すべきである。本件の場合、原告自身は本件決議(一)2が行われる際に、事前に組合員に説明する必要があったのではないかと疑問を呈し、疑問を呈したことを議事録に記載するように要求したものの(乙一)、原告以外の組合員からは議案の要領の通知がなかったことに関し、決議前あるいは決議後相当期間内に異議が述べられた形跡も認められないのであって、議案の要領の通知の欠缺が決議に重大な影響を及ぼすべき特段の事情があったものとは認められないから、右手続の瑕疵は、本件決議(一)2の無効事由とならない。

三  本件決議(一)の可決要件について

本件決議(一)の各議決が成立するためには、いずれも、組合員数(区分所有者数)及び議決権数の四分の三の多数の賛成が必要とされる(区分所有法三一条一項、五五条二項)。本件総会(一)当時の組合員数について、直接証拠はないが、乙三、九によれば、平成元年一二月一日及び平成二年三月四日当時の組合員数が一六七名であったことから、本件総会(一)当時も一六七名であったと推認すべきである。本件総会(一)には一四九名の組合員が出席し、本件決議(一)3に四名が反対し、同(一)2に一名が反対し、三名が保留したに過ぎず(甲一、乙一)、さらに無効票を投じたと原告が主張する九名を差し引いても、賛成した組合員は、いずれの決議についても、一三六名に達し、組合員の四分の三(一二六名)を優に超えるから、組合員数に関しては、その可決要件を満たしていると認められる(なお、規約四六条一項は、「総会の決議は、組合員の過半数が出席し、その議決権の過半数で決する。ただし、規約およびその他規定の改廃は、組合員の議決権の四分の三以上の多数で特別決議を要する」旨規定する。しかし、区分所有法上、管理組合法人の解散や規約の改廃には区分所有者数及び議決権の各四分の三以上の多数による特別決議が必要とされ、右議決要件を規約で緩和することは許されないのであって、規約四六条一項のただし書は、区分所有者数に関する可決要件を欠いている点で、区分所有法に違反し無効である。)。

そこで、議決権数が四分の三の多数の賛成票を得ていたかを、以下において検討する。

四  委任状作成者の権限の有無について

1 証人赤木槫によれば、次の事実が認められる。

(一) 赤木槫は、杉本建設が本件朝日九段マンションを購入した際に仲介等をした者で、杉本建設の役員又は従業員ではなく、単に顧問的な立場で問題が生じたときに助言を与えていたが、杉本建設の代理人として行為したことはなく、被告の総会の委任状を自ら作成提出することもなかったこと。

(二) 本件総会(一)以前から、被告の総会に提出する委任状は、杉本建設の従業員が、その都度代表者の授権を受けることなく作成し提出していたものであり、本件総会(一)に提出された委任状も、従業員の三条弥栄子が作成提出したものであること。

(三)本件総会(一)の決議後、赤木が議決権の算定方法が杉本建設に不利に変更されたことを知って、杉本建設の社長と相談の上、決議の無効を一時主張したが、管理組合の議決権の算定方法が組合員一人一票から区分専有部分の面積割合に変更となった現在では、赤木を含め、杉本建設側で本件決議(一)の無効を主張する意思はないこと。

これらの事実によれば、従業員の三条が杉本建設の内部的な意思形成の上で適切な手順を踏んだかどうかはともかくとして、本件総会(一)に提出する委任状の作成権限そのものについては、同人が有していたと認めるのが相当である。

2 証人松尾洋三によれば、同人は従来から、自己の判断で日刊工業の議決権行使の委任状を作成交付していたというのであって、本件決議(一)のうち議決権に関する規約の改正のような日刊工業の権利に重大な影響のある議案については社内的な手続を経る必要があるとはいうものの、その点は日刊工業の内部的な手続にとどまるから、同人は、本件総会(一)当時、議決権行使の委任を行う対外的権限を有していたと認めるべきであり、本件委任は有効であると解される。

五  詐欺による委任の取消について

横山に対し、被告の理事や管理人等が大した議案はない旨述べて議決権行使の委任を勧誘し、横山がその旨錯誤に陥って委任状を交付したとの事情を認めるに足りる証拠はない。

杉本建設の三条及び日刊工業の松尾に対しては、甲三、証人赤木、同松尾によれば、勧誘に際しそうした言葉が使われた可能性は否定できないものの、本件総会(一)の通知(甲二)には規約・規則改正の件(議決権条項等)、管理組合法人解散の件等の議題の記載があり、右記載自体で重要な議案があると容易に判断できるのであるから、右の程度の抽象的な言葉で重要性を否定するがごとき説明がなされたとしても、未だ欺罔行為があったと評価することは相当でない。

また、招集通知に記載した議案が実際の決議の順序と異なることが、欺罔行為にあたると考えるべき事情は認められない。

詐欺による委任の取消しの主張は理由がない。

六  代理人資格の欠缺の主張について

規則五四条一項の「委任者は、本マンションに居住している者、又は本マンション組合理事会に限り認められその他の第三者には認められません。」との条項は、被告が区分所有法所定の団体であって、その総会の議決権は区分所有者に限定され、組合理事会が委任者となることはあり得ないことからすれば、「委任者」は「受任者」の誤記であると認めるべきである。

議決権の代理人による行使を認めた区分所有法三九条二項は、代理人の資格の制限ができることを明示はしていないが、管理組合が区分所有者のみで構成される私的な団体であることからすれば、その内容が合理的なものである限り、同法三〇条一項の規約によって代理人の資格を一定の者に制限することは許されてよいと考えられる。しかし、代理人の資格制限は、その内容によっては議決権の代理行使に対する実質的な制限となり得るものであるから、規約自体に定めるか、規約の具体的な委任により定める必要があるものと解すべきである。被告の規約四四条二項(乙二)は、代理人資格に制限を設けておらず、かつ、規約には右の点についての規則に対する委任規定も存しない。原告は、前記規則五四条一項の定めは、規約五五条の「規約に定めのない事項」として、理事会の決議を経て定めた組合の業務に必要な細則であるから有効であると主張するが、代理人の資格制限は、単なる「組合の業務に必要な細則」というべきではなく、規約五五条は代理人の資格制限に関する具体的な委任条項であるとはいえない。また、原告は、規則五四条は実質的に総会において承認を得ていると主張するが、総会の特別決議が必要な規約の変更手続を経ていない(争いがない)以上、規約類似の効力をもつ規定とは解されない。

したがって、代理人資格を制限する規則五四条は無効であり、代理人山口らが行使した賛成票はいずれも有効と解される。

七  結論

以上のとおり、原告が無効であると主張する九九票中、九二票については、すでに有効であると認められ、その余の七票につき判断するまでもなく、特別決議に必要な議決権数の四分の三(四九三票)以上である四九七票の賛成があったと認められる。したがって、本件決議(一)の各決議は、いずれも、組合員数及び議決権数の四分の三以上の多数の賛成により可決されたと認められるから、その無効を主張する原告の請求は理由がない。

(第二事件)

一  本案前の主張について

被告は本件決議(二)1ないし3は確認の利益がないと主張する。本件決議(二)1及び2は、本件決議(一)1を確認しただけのものであるところ、本件決議(一)1が有効であることは前記のとおりであるから、独自にその無効又は不存在を確認する利益はない。したがって、主位的請求のうち本件決議(二)1及び2の不存在確認の訴え、予備的請求のうち、本件決議(二)1及び2の無効確認の訴えは、いずれも確認の利益を欠き、不適法である。

しかし、本件決議(二)3は、本件総会(一)における予算案承認の前提とはなっていても、同決議の内容自体が本件総会(一)において決議されているものではないから、その無効ないし不存在を確認する利益がないとはいえない。

そこで、以下において、本件決議(二)3ないし5につき、その存否及び効力について検討する。

(主位的請求)

二 招集者の資格欠缺による決議不存在の主張について

管理組合法人が解散した場合は、原則として理事が清算人に就任する(区分所有法五五条三項、民法七四条)。解散により、管理組合法人の業務執行についての一般的機関たる理事は、当然その職務権限を失って、清算に関する一般的機関たる清算人がこれに代わる。すなわち、清算人は、清算法人において、理事と対比すべき地位に立つ機関であり、その事務の執行の方法も、清算法人の能力の範囲内であれば、理事と同様であるから、清算事務の範囲内であれば、総会の招集権限をも有する(区分所有法四七条九項、三四条一項)。

そして、区分所有法五五条三項が準用する民法七八条は、清算人の職務権限のすべてを規定したものではなく、清算のために必要な事項は、全てその職務権限に含まれると解すべきであるところ、被告と原告との間には、解散前の被告法人が有していた財産を管理組合に移転させたこと、解散決議後の臨時総会において池田氏を監事に選任したことを巡って紛争があり、その解決を図るにつき、被告の意思を最高決定機関である総会により確認することは、望ましいことであって、その必要性に疑いはない。また、清算中の法人であっても、新たな訴えの提起は可能であって(商法四四五条三号、破産法一九七条一〇号参照)、訴えを提起したり、そのための費用を支出することを、総会に諮って決定することも相当である。したがって、清算人が本件総会(二)を招集するにつき、その権限があったことは明白であり、原告の主位的請求は理由がない。

(予備的請求)

三 投票数の確認の不備の主張について

本件決議(二)3ないし5は、特別決議事項ではないから、規約四六条一項により、組合員の過半数が出席し、その議決権の過半数で決せられる(区分所有法三九条一項)。

本件総会(二)においては、委任状だけで九九名の出席が確保され、現実に出頭した三七名を合わせれば一三六名の出席があることは確認されており(乙三)、これは総組合員数一六七名の過半数(八四名)を超えているから、本件総会(二)は成立したものと解され、原告の主張するような定足数の確認を怠った瑕疵はないと認められる。

ところで、前述のように、本件総会決議(一)の結果、本件総会(二)当時の規約四四条は、所有個数及び専有面積にかかわらず、組合員は一票の議決権を有するとの定めに変わったものであるところ、前述のとおり右決議は手続的に無効と認められず、かつ、特別決議と異なり、区分所有法三九条一項に定める普通決議の要件(区分所有者の過半数及び議決権の過半数)については、規約によって別段の定めをすることができ、出席組合員の過半数により決する旨定めることも適法であるから(右規約四四条は直接には議決権の算定方法を定めたものであるが、規約四六条とあいまち、実質的には普通決議の決議要件を出席組合員の過半数によると定めたのと異ならない。)、普通決議の要件に関する限り、右規約四四条は、実体的にも有効と解するのが相当である。したがって、本件決議(二)3ないし5は、組合員の過半数が出席し、出席した組合員の過半数が賛成すれば、成立することとなる。

本件総会(二)においては、委任状出席者だけで九九票の賛成票があり、原告が無効を主張する委任による賛成票五票を除いても、総組合員数の過半数(八四票)を優に超すことが明らかである。したがって、議長が反対者だけを確認して賛成者数と棄権者数を確認しなかったとしても、本件決議(二)の成立に影響がない。

四 本件決議(二)3(財産の被告から管理組合への移転)の無効の主張について

区分所有法五六条が、解散した管理組合法人の財産は各区分所有者に帰属する旨定めていることは原告の主張するとおりである。しかし、管理組合法人の解散事由のうち、建物全部の滅失(区分所有法五五条一項一号)や専有部分の消滅(同項二号)による解散のように法人存立の基礎である区分所有者の団体が存在しなくなる場合と異なり、集会の決議による解散(同項三号)の場合は、管理組合法人の基礎たる区分所有法三条の団体は消滅せず、なお存続して、本来の活動を続けるのであるから、規約に別段の定めがなく、かつ解散決議において別段の措置を講じない限り、法人の残余財産は、区分所有者に現実に払い戻されることなく、当然に区分所有者全員に合有的ないし総有的に帰属する、すなわち三条の団体に帰属すると解すべきである。区分所有者は、管理組合法人が解散しても、なお存続し活動し続ける三条の団体の構成員としてとどまらなければならないし、法人格を失うだけで、実質的には、解散法人と三条の団体とは同一性があり、法人の解散に際して残余財産を構成員に払い戻すことは相当ではないからである。

したがって、本件決議(二)3のような決議は必ずしも必要ではないが、管理組合法人も、清算のみを目的とするものとして存続するから、清算法人の集会において、残余財産を三条の団体に移転させたことを確認することは、法律関係を明確にするものとして有益であり、いずれにせよ、右決議を違法・無効とする理由は見出せない。

原告の主張は失当である。

五 本件決議(二)4(監事選任)の無効の主張について

平成元年一一月一二日開催の臨時総会は、その議事録(乙九)によれば、管理組合の総会として招集されたものであって、被告の総会ではないと認められるから、右総会において選任された池田監事が被告の監事となるものでない。しかし、被告の総会において、管理組合の監事を被告の監事として選任することは差し支えないから、本件決議(二)4のうち、選任を確認する部分が無効であるとしても、池田を監事に選出した決議が無効となる理由はない。そして、本件決議(二)4のうち、監事の選出の部分が有効であれば、選任の再確認を無効と確認する意味はないから、全体として、本件決議(二)4は有効と認めるのが相当である。

六 結論

以上のとおり、主位的請求のうち本件決議(一)1及び2の不存在確認を求める訴え及び予備的請求のうち本件決議(二)1及び2の無効確認を求める訴えは、確認の利益がないから不適法であり、その余の原告の請求はいずれも理由がない。

(第三事件)

一  本案前の主張について

1 本件決議(三)の無効確認について

被告の規約(甲二)によれば、役員の任期は組合定期総会終了時までとされ(規約三四条一項)、任期の満了または辞任によって退任した役員の任期は、新たに選任された役員が就任するまで、その職務を行うこととされている(規約三四条二項、なお区分所有法四九条六項)。本件決議(三)により選任された理事らの任期は満了している(弁論の全趣旨)から、本件決議により選任された理事らはすべて理事の地位になく、また、後任者が就任していれば、その職務を行う者としての地位も喪失することになる。

ところで、管理組合法人が解散した場合、管理組合法人の一般的機関としての理事は当然にその職務権限を失って、清算に関する一般的機関としての清算人がこれに代わる。すなわち、管理組合法人が解散した場合は、理事の後任は清算人ということになる。被告が本件総会(一)において解散決議を行い、川村善次を清算人に選任し、現在は川村が被告を代表して事務を執行していることは当事者間に争いがなく、被告を解散して清算人を選任した右総会決議が有効であることは第一事件において判示したとおりであるから、本件決議(三)により選任された理事らがその職務を行う地位にないことも明白である。

本件決議(三)の無効確認の訴えは、確認の利益を欠くというべきである。

2 理事長の地位確認について

原告の理事長の任期が満了していることは被告の主張のとおりであるが(弁論の全趣旨)、原告の訴えが被告の理事長という法的地位、すなわち、現在の法的地位の確認を求めるものである以上、確認の利益は認められる。したがって、訴えの却下を求める被告の主張は失当である。

二  理事長の地位の有無について

一で述べたとおり、被告の役員の任期は組合定期総会終了時までであり、任期の満了後の役員は、新たに選任された役員が就任するまで、その職務を行う地位にとどまるだけである。原告の理事長の任期は満了しているから、原告は理事長の地位にない。また、被告が本件総会(一)において解散決議を行い、川村善次を清算人に選任し、現在は川村が被告を代表して事務を執行していること、被告の解散及び清算人の選任の右総会決議が有効であることも一で検討したとおりであり、解散前の理事長に相当する清算人が有効に選任されている以上、原告は理事長の職務を行う者の地位にないことが明らかである。

よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告が理事長の地位にあることの確認を求める請求は理由がない。

三  結論

以上のとおり、本件決議(三)の無効確認を求める訴えは確認の利益がないから不適法として却下を免れず、理事長の地位の確認を求める請求は理由がないから棄却すべきものである。

(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 本間健裕 裁判官 棚橋哲夫)

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